誤嚥を予防する薬~現役薬剤師のひとりごと~
食べ物や飲み物、あるいは唾液などは飲み込むと食道を通って胃に流れますが、誤って気管に入ることがあります。
これを誤嚥と言います。
誤って気管に入りそうになった場合、通常は咳などの生体反応により吐き出されます。
誰しもが、食べ物が誤って気管に入った時に不意にむせたりすることを経験したことがあるでしょう。
ただし、加齢や脳梗塞などの病気によって誤嚥のリスクが上がります。また、吐き出す力も弱ってくることがあります。
その結果、この誤嚥が原因で誤嚥性肺炎を引き起こすこともしばしばみられます。
特に高齢者にとって、誤嚥性肺炎は死につながる可能性がある病気ですから、誤嚥のリスクを下げることが重要になります。
誤嚥の予防に用いられる薬
誤嚥の予防に適応のある薬はなく、全て適応外使用となります。
●ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)
高血圧の治療薬としてよく使われているACE阻害薬という分類の薬はサブスタンスPを分解する酵素(アンジオテンシン変換酵素)を阻害する薬です。副作用として空咳が知られています。咳を引き起こすブラジキニンやサブスタンスPの分解を抑制するため咳が出やすくなる人がいます。この副作用を逆手にとって、誤嚥の予防に使用できるのではないかと言われています。
●アマンタジン(シンメトレル®)
脳梗塞後遺症やパーキンソン症候群などに使用される薬です。ドパミンの放出促進作用、再取り込み抑制作用、合成促進作用をもつと言われています。結果としてサブスタンスPの合成能を高めるのではないかと考えられています。
●シロスタゾール(プレタール®)
抗血小板作用のある薬で、脳梗塞の予防などに使用される薬です。シロスタゾールにもサブスタンスPの産生を促す働きがあり、その結果、誤嚥の予防に繋がるのではないかと言われています。
●六君子湯
胃腸が弱って食欲がないような時によく使用される漢方薬です。六君子湯には胃腸の動きを改善させる働きがあり、胃や食道の逆流症を改善させる作用があります。逆流による誤嚥を予防できると言われています。
いずれも誤嚥に対して適応がある薬ではありませんが、誤嚥のリスクが高い場合などにはそれぞれの病歴を考慮した上で、これらの薬の使用を考えてもいいかもしれません。
しかし、忘れてはならないのは、誤嚥を予防するためにはてっとりばやく薬に頼るのではなく、まずは顔や首、口周りのマッサージやストレッチ、体操などの訓練、あるいは食事の形態の変更、食事に際の姿勢の変更、そういった環境面の改善が重要だということです。
【薬剤師向け】リファンピシンは食後でもOK
リファンピシンは結核の治療薬として古くから使われる薬です。実は、昔からリファンピシンは食前に服用しなければならないと言われてきました。薬剤師の国家試験でも食前に服用する薬の代表例の一つとして、問われることの多い薬でした。しかし、最近では食前にこだわらないという見解が多くみられます。
今回はそんなリファンピシンという薬についてまとめてみたいと思います。
リファンピシン
参考:リファジン®カプセルの添付文書
用法用量(抜粋)
肺結核およびその他の結核症に対して
1回450mg 1日1回
原則として朝食前空腹時投与
添付文書ではこのように記載されていますが、実際の肺結核などでの処方では成人に対して1日あたり10mg/kg(体重)で計算されることもあります。
1カプセルあたり150mgの製剤のため、3カプセル(450mg)が結果として多いですが、4カプセル(600mg)での処方もあり得ます。
作用機序
RNAポリメラーゼ阻害薬
主な副作用
肝障害、皮疹・発疹、胃腸障害、血液障害など
薬物相互作用
リファンピシンはチトクロームP450 3A4(CYP3A4)をはじめとする肝薬物代謝酵素、P糖蛋白を誘導する作用があります。そのため、多くの薬剤との相互作用が報告されていますが、全ての組み合わせについて調査されているわけではないため、相互作用の報告がない薬であっても併用には注意が必要です。併用禁忌薬の多い薬としても有名です。
食事との影響
食後投与で血中濃度の低下がみられていることから、添付文書では原則として朝食前空腹時投与とされています。ただし、食後の服用でも実は効果には大きな差がないという報告がなされ、現在では食後に他の薬と一緒に確実に服用する方がよいとの見解もあります。
この薬の特徴の一つとして、他の薬との相互作用がある点があげられます。この薬を飲み始める時、あるいはこの薬を飲んでいる時に別の薬を飲み始める時には、医師や薬剤師に服用中の薬を必ず伝えるようにしましょう。また、食前の服用の薬が食後で処方されている場合であっても、このリファンピシンの場合は確実に毎日飲んで欲しいという医師の気持ちが表れていることを理解し、飲み忘れず服用するようにしましょう。
朝起きたらまず薬!~ビスホスホネート~
薬は一般的に食後に飲みましょうというものが多いのですが、実は起床時に服用しなければならない薬があります。その代表例は骨粗鬆症などの治療に用いられるビスホスホネート系と分類される薬です。
今回はこのビスホスホネート系の薬剤についてどうして起床時に服用するのか紹介したいと思います。
ビスホスホネート系製剤の代表例
・アレンドロン酸ナトリウム水和物(フォサマック、ボナロン)
・リセドロン酸ナトリウム水和物(アクトネル、ベネット)
・エチドロン酸二ナトリウム水和物(ダイドロネル)
・ミノドロン酸水和物(ボノテオ。リカルボン)
・イバンドロン酸ナトリウム水和物(ボンビバ)
ビスホスホネート系を服用するときの注意点
ビスホスホネート系の薬剤(飲み薬)は基本的には起床時に服用することと決められています。
また、起床時に服用した後、30分は水以外のものを飲み食いしないこと、横にならないこと(寝転ばないこと)と指導されます。
ではどのような理由からこのように決められているのでしょうか。
★起床時に飲まなければならない理由★
起床時に飲まなければならない理由は、食事の影響を受けやすいからです。
食べ物が胃の中にある状態でこの薬を服用すると、著明に吸収が低下します。食事からかなりの時間がたっていてもほとんど薬として吸収されないこともあります。
そのため、起床時の何も食べていない状態(もちろんジュースなどの飲み物も飲んでいない状態)で服用しなければなりません。
そして、服用後30分は水以外の飲み物や食べ物を摂取してはいけません。カルシウムやマグネシウム等の含有量が高いミネラルウォーターも注意が必要です。
★横になってはいけない理由★
横になってはいけない理由は、食道などの消化管に対して刺激が強い薬だからです。
横になることで、薬が食道に滞留したり、一度胃まで到達した薬が食道へ逆流したりすることで、食道炎や食道潰瘍を生じる恐れがあります。
そのため、服用後30分は横にならないようにと定められています。
まとめ
このビスホスホネート系に分類される薬は飲み方が特殊です。特殊な飲み方の薬にはそれぞれ何かしらの理由があるものです。
そうはいっても、起床時だと飲み忘れてしまう方もいるでしょう。
ビスホスホネート系製剤が発売された当初は毎日服用する薬しかなかったのが今では週に1回、月に1回、さらには年に1回(注射薬)の薬まで出てきています。
年に1回だと逆に忘れてしまいそうですが、薬を服用する手間が少しでも省けることに今後も期待していきたいと思います。
カルシウムを摂ればいいってもんじゃない
骨粗鬆症にはカルシウム!という認識。正しいのですが、時には控えた方がよい場面もあります。その一つは骨粗鬆症の薬を飲んでいる場合です。
骨粗鬆症の治療薬には様々なものがあります。ここではそれぞれの作用機序などについて詳細は省略しますが、以下のように分類されます。
●カルシウム製剤
アスパラCA® など
●活性型ビタミンD3製剤
アルファカルシドール(アルファロール®、ワンアルファ®)
エルデカルシトール(エディロール®) など
●女性ホルモン薬
エストラジオール (ジュリナ®) など
●ビタミンK2
メナテトレノン(グラケー®)
●ビスホスホネート薬
アレンドロン酸ナトリウム水和物(ボナロン®、フォサマック®)
リセドロン酸ナトリウム水和物(ベネット®) など
●選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)
ラロキシフェン塩酸塩(エビスタ®) など
●カルシトニン製剤
エルカトニン(エルシトニン®) など
●副甲状腺ホルモン薬
テリパラチド(フォルテオ®) など
●モノクローナル抗体製剤
デノスマブ(プラリア®) など
●その他
基本的にはこのうち、カルシウム製剤もしくは活性型ビタミンD3製剤、副甲状腺ホルモン薬を使用中の場合はサプリメント等で過剰にカルシウムを摂取することは避けるべきです。高カルシウム血症や高カルシウム尿症を呈する危険があるからです。
逆に低カルシウム血症になりやすく、カルシウム製剤などを併用しなければならないものもあります。
骨粗鬆症にはカルシウム! 間違いではありませんが、薬を服用している際には注意が必要な場合もあります。健康食品やサプリメントであっても服用する時には医師や薬剤師に必ず相談するようにしましょう。
生まれてはじめて飲ませるお薬
生まれたばかりの新生児はビタミンKが欠乏状態になりやすいと言われています。
このビタミンKを補うために飲ませる薬が、初めてお父さんお母さんが自分の子どもに飲ませてあげる薬になることがあります。子どもに薬を飲ませるって結構大変なんです。
今回はこの新生児で欠乏しやすいと言われるビタミンKについてまとめてみたいと思います。
ビタミンKはなぜ不足するのか
ビタミンKは胎盤移行性が悪く、出生時に体内に備蓄される量が少ないことが多いのです。
加えて、母乳中に含まれるビタミンKも少なく、また、腸管吸収が悪いこと、新生児ではビタミンKを産生する腸内細菌が育っていないことなどが大きな理由です。
ビタミンKが不足するとどうなるか
ビタミンKは肝臓での血液凝固因子の合成に関与し、止血作用を発現します。
そのため、ビタミンKが欠乏すると出血をきたしたりや出血しやすい状態に陥りやすくなります。
ビタミンK欠乏性出血症(Vitamin K deficiency bleeding : VKDB)とも言われます。
不足しがちなビタミンKを補うために
VKDBを予防する目的で日本では合併症などを持たない新生児に対してケイツー®シロップと呼ばれるビタミンK製剤を服用させます。
[ケイツー®シロップ]
(参考:ケイツーシロップの添付文書)
一般名:メナテトレノン
効能・効果:新生児出血症及び新生児低プロトロンビン血症の治療
新生児・乳児ビタミンK欠乏性出血症の予防
用法用量:ビタミンK欠乏性出血症の予防に対して
通常、出生後、哺乳が確立したことを確かめてから、1回1mL(メナテトレノンとして2mg)を経口投与する。その後、2回目として生後1週間または産科退院時のいずれか早い時期、3回目として生後1ヶ月時にそれぞれ1回1mLを経口投与する。
代表的なスケジュール
1回目 ⇒ 出生後哺乳を確認した後
2回目 ⇒ 退院時もしくは生後1週間
3回目 ⇒ 1ヶ月検診時
この方法でもVKDBの報告があることから次のような投与方法もあります。
●出生後3ヶ月まで週に1回 ケイツーシロップを1回1mLずつ投与
服用方法
・基本的には1回1包(1mL)を白湯で約10倍に薄めて飲ませます。
・スティック包装の薬ですが、直接投与せず、哺乳瓶やスプーンなどに移して投与してください。誤嚥の可能性や唇が傷つく可能性があります。
・スポイドを使用して服用させる時は、頬裏と歯茎の間に薬を流し込むと吐き出しにくくなります。
副作用:めだつ副作用はほとんど報告されていません
妊娠中のワクチン接種はどうしたらいいの⁉
妊娠中のワクチン接種ってちょっと怖いですよね。
「ワクチンを打ったことで胎児に何かあったらどうしよう」と感じたり、逆に「ワクチンを打たないで感染症にかかったらどうしよう」と感じる方はたくさんいます。
しかし、ワクチンの歴史は古く、その多くが妊婦にも使われてきました。
もちろん、妊娠中に使用できないワクチンもあります。
今回は、妊娠中のワクチン接種についてまとめてみたいと思います。
●インフルエンザワクチン
日本のインフルエンザワクチンの添付文書には妊婦への投与は予防接種上の有益性が危険性を上回る場合のみ接種することとされています。
同時に、小規模ながら、接種により先天異常の発生率は自然発生率より高くはならないという報告があるとも記載されています。
アメリカなどでは妊婦にはインフルエンザの予防接種が推奨されています。
①妊婦はインフルエンザに罹患すると重症化しやすい
②妊婦がワクチンを接種することで生後6ヶ月頃までの児のインフルエンザ罹患率を下げる報告がある
③胎児への影響は自然発生的なリスクと変わらない
④副反応は非妊娠時と変わらない
インフルエンザワクチンは免疫抑制剤(シクロスポリンなど)の長期投与を受けている人には効果が得られにくいとの報告もあり、免疫抑制剤を使用中の妊婦については接種の前にしっかりと検討する必要があるでしょう。
このようなことを鑑みた上で、最後は自身で投与するかどうかを決定する必要があります。
●麻しんワクチン、風しんワクチン、水痘ワクチン
妊娠中はこれらの生ワクチンは接種できません。
しかし、日本は今でも麻しんや風しんが時折流行します。妊婦自身は予防接種を受けることができないため、夫など家族にこれらのワクチン接種を受けてもらいましょう。
●コロナワクチン (2021年9月現在)
コロナワクチンについてはまだまだデータはなく、現段階では妊婦のコロナワクチンの接種についてはよくわかりません。
しかし、日本でも海外でも妊婦も接種すべきだという報告がいくつも上がってきています。
生ワクチンではありませんから、受けてはいけないというものではありません。妊婦への投与でどういった影響が出るのかについては現時点では定かではありません。これは妊婦に限らずですが、コロナワクチンを受けるかどうかについては個人の判断に委ねられるというのが現状です。
コロナワクチンを打って何かあったらどうしようという不安が大きい方は受けずに出産後まで様子をみるという選択も間違いではないと思います。また、妊娠中にコロナにかかったらどうしよう(ワクチンを打ったからといって100%予防できるわけではないですが)という不安が大きい方は受けるという選択をしても、それも間違いではないでしょう。
アスピリンはピリン系なのか
「アスピリンはピリン系ですか?」「ピリン系でアレルギーがあるのにアスピリンを飲んでもいいのですか?」
こういった問い合わせを受けることがあります。
答えとしては、アスピリンはピリン系ではありません。
名前が似ているので、勘違いをされる方もいますし、医療従事者でさえ混同している場合もあります。が、違います。
今回は、ピリン系についてまとめてみたいと思います。
ピリン系の薬とは
ピリン系はピリン環(ピラゾロン)という化学構造を持つ解熱鎮痛剤の総称です。
アレルギーが起きやすい薬として有名です。
解熱鎮痛作用が強いですが、抗炎症作用は期待できません。
ピリン系薬剤(一般用医薬品)
実はピリン系薬剤は近年では使われる機会が減ってきており、あえてピリン系を病院から処方されるということは少なくなっています。
しかし、市販薬にもピリン系薬剤があります。風邪薬などを購入する際には薬剤師に確認するようにしましょう。
市販薬のピリン系というとイソプロピルアンチピリンが該当します。「IPA配合」などと書かれていることもあります。
※代表例
・セデス®・ハイ
・プレコール®
・ルルアタック®FXa など
一般薬はピリン系と表示されていることが多いですが、必ずしも目立つように書かれているものではありません。また、同じような名前で全く異なる成分の市販薬も少なくありません。
薬でアレルギーがある方は購入前に必ず薬剤師に相談しましょう。
また、市販薬を服用した後にアレルギー症状が出た場合は薬のシートだけでなく、外箱を持って病院を受診するようにしましょう。
また、余談になりますが、ピリン系でアレルギーがあるという方の中には本当は違うのにピリン系だと思い込んでいる例もあります。例えば、本当はアスピリンでアレルギーなのに、自身がピリン系でアレルギーだと思っているためにアスピリンが躊躇いなく処方され、再びアレルギーを発症するという可能性もあります。
アレルギーが出た薬については必ず薬剤名や成分名をきちんと把握しておくようにしましょう。