イソニアジドを飲んでるときはマグロはダメ
イソニアジド(イスコチン®)は抗結核薬として古くから使われる薬です。今でも結核治療には欠かせない薬です。
今回はこのイソニアジドについてまとめてみたいと思います。
★イソニアジド(イスコチン®)★
(参考:イスコチン®の添付文書)
用法用量:
1日量200~500mg(4~10mg/kg)を1日1~3回に分けて
添付文書ではこのように記載されていますが、実際に肺結核などでの処方では連日服用の場合は成人に対して1日あたり5mg/kg(体重)で計算されることが多いように思います。また最大投与量を300mgとしている場合も多いです。
作用機序:
ミコール酸の生成合成抑制
結核菌には細胞壁と呼ばれる細胞薬を覆う壁が存在します。その結核菌の細胞壁にはミコール酸と呼ばれる脂質が多く含まれています。
このミコール酸の生成を抑制することで、結核菌は正常な細胞壁を作ることができなくなります。その結果、結核菌の増殖を抑制することができるというわけです。
主な副作用
重篤な肝障害
視神経炎
末梢神経障害
イソニアジドの作用によりビタミンB6が不足すると言われています。ビタミンB6不足によって末梢神経障害が発症するとされています。この服用を予防するためにビタミンB6製剤(ピリドキサール)が併用されることがあります。
イソニアジド服用中に摂取を控えるべき食品
・ヒスチジン含有量の多い食品
例えば マグロ、ぶり、ハマチ、サバなど
理由:ヒスチジンは体内でヒスタミンに変化します。ヒスタミンの代謝(分解)にモノアミン酸化酵素(MAO)などが関与していますが、イソニアジドはこのMAOを阻害する作用を有するため体内にヒスタミンが蓄積されます。このヒスタミンの作用により頭痛や紅斑、嘔吐、そう痒などの症状が現れます。
・チラミン含有量の多い食品
例えば チーズ、ワイン、サラミ、レバーなど
理由:チラミンはモノアミン酸化酵素(MAO)によって不活化(分解)されます。このMAOをイソニアジドが阻害するため、チラミンが不活化されず体内に吸収されます。窮されたチラミンはノルアドレナリンやその他のカテコラミンの遊離を促進し、それらの体内濃度が高くなります。このノルアドレナリンやその他のカテコラミンの作用により血圧上昇や動悸などの症状が現れます。
今回は割愛しましたが、イソニアジドは食品だけでなく、他の薬との相互作用も多い薬です。治療の際には他の病院でもらっている薬の情報もきちんと主治医や薬剤師に伝えるようにしましょう。
また、今回の一例としてイソニアジド服用中はマグロを食べることを控えなければならないと紹介しました。同時にイソニアジドによってビタミンB6が不足することも紹介しました。実はマグロはビタミンB6が豊富に含まれている食品でもあります。食べるべきか控えるべきか悩んでしまうかもしれません。今回のテーマのイソニアジドという薬ではピリドキサールを併用することで、ビタミンB6不足を補うことができるため、ヒスタミンによる副作用を回避するためにマグロは避けるべきと結論づけることができるでしょう。
人に感染させない潜在性結核感染症
潜在性結核という言葉を聞いたことはあるでしょうか。
結核という言葉を聞いたことがある人は多いでしょう。
今回は潜在性結核感染症(LTBI)について紹介したいと思います。
潜在性結核感染症とは
結核という病気は発病すると人に感染させるリスクがある病気です。
一方、潜在性結核感染症(LTBI)はこの結核には感染しているものの発病しておらず、人に感染させることがない状態をいいます。
結核に特徴的な咳などの症状もありません。
さいごに
結核と聞くと怖いというイメージがある人もいるでしょう。
また、イソニアジドなどは結核の治療薬として有名な薬ですから、このような薬を飲んでいる人に出会ったときに、怖いと感じる方もいるようです。
しかし、抗結核薬は人に感染させることのない潜在性結核感染症に対しても用いられるのです。
大事なのは、同じ薬を飲んでいる人がみんな同じ病気だとは限らないということです。
今回は、この潜在性結核感染症の治療薬を例にあげましたが、同じようなことは他の薬でも起こりえます。
病気というのは人によっては知られたくないことであるのと同様に、薬も知られたくないという人がいます。たとえ、誰かが飲んでいる薬を目にしたとしても、安易に特定の病気に結びつけないように気をつけましょう。
しゃっくりに効く薬 ~現役薬剤師のひとりごと~
吃逆(きつぎゃく)、すなわち、しゃっくりは誰もが経験したことがあるものではないでしょうか。
しゃっくりは横隔膜の痙攣であるということも聞いたことがある人もいるでしょう。
多くの場合、しゃっくりが出たからといって心配する必要はありません。薬も必要ありません。
しかし、世の中には病気が原因であるしゃっくりなど、薬を必要とする場合があります。
今回は、しゃっくりに使用される治療薬についてまとめてみましょう。
漢方薬を除いて唯一保険適応のある薬です。統合失調症、うつ病などに対しても効果のある薬ですから、病院や薬局でもらう薬情(お薬の説明書)にはそのような文言が含まれている場合があります。催眠作用(眠気)の強い薬です。
○処方例 コントミン錠12.5mg 1錠 発作時(吃逆時)
コントミン錠12.5mg 1回1錠 1日3回
●呉茱萸湯(ごしゅゆとう)
胃腸関連の症状に対して使用される漢方薬です。呉茱萸湯は複数の製薬気社から発売されていますが、今のところコタローの呉茱萸湯にはしゃっくりに適応があります。
○処方例 呉茱萸湯2.5g 1包 発作時(吃逆時)
呉茱萸湯2.5g 1回1包 1日3回
●メトクロプラミド(プリンペラン®)
吐き気止めとしてよく使用される薬です。しゃっくりに対して保険適応はありません。上記のクロルプロマジンとの併用は避けた方がよいでしょう。
○処方例 プリンペラン錠5mg 1錠 発作時(吃逆時)
プリンペラン錠5mg 1回1錠 1日3回
てんかんや痙攣に使用されることが多い薬です。しゃっくりに対して保険適応はありません。常用すると眠くなることがあります。
○処方例 リボトリール錠0.5mg 1錠 発作時(吃逆時)
●してい湯(柿のへた煎)
病院や医療機関では院内製剤として調製してくるところもあります。市販薬としても発売されており、処方箋なしで購入することが可能です。重篤な副作用は報告されていません。ただし、漢方薬の一種ですので味には好き嫌いがあるでしょう。
○処方例 柿のへた 1回10g 発作時(吃逆時)
柿のへた 1回10g 1日3回
●芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)
筋肉の痙攣などによく使用される漢方薬です。横隔膜の痙攣も筋肉の痙攣ですから、適応があると判断することも可能ですが、実際にはしゃっくりに適応はないと言われています。
○処方例 芍薬甘草等2.5g 1包 発作時(吃逆時)
その他、様々な薬がしゃっくりに対して使用されたという報告があります。今回、飲み薬を中心にまとめましたが、唯一適応があると紹介したコントミン®は注射薬もあります。他に、抗てんかん薬や抗ヒスタミン薬(抗アレルギー薬)、あるいは筋弛緩作用のある薬剤などが使用されることがあります。
多くのしゃっくりは薬を必要とせず、自然に止まります。しかし、長引く場合、もしかすると何かの病気が原因の可能性もあります。今回、しゃっくりに効く薬をまとめてみましたが、いずれも「しゃっくり」という症状を緩和するものであり、原因の病気の治すものではありません。市販で買える漢方薬もありますが、長引くしゃっくりの原因がわからない場合は早めに病院を受診するようにしましょう。
子どもの粉薬に【ドライシロップ】と記載されているかは要チェック
ドライシロップという言葉を聞いたことがあるでしょうか。
子どもの粉薬などの名前をよく見てみると「○○○ドライシロップ」と標記されたものがあります。ドライシロップとはどのようなものをいうのでしょうか。
今回は、このドライシロップについてまとめてみたいと思います。
ドライシロップとは
ドライシロップとは、粉薬の一種で、水に溶かして飲むことのできる顆粒状もしくは粉末状の薬です。
糖類や甘味料で甘く味付けされています。主に小児向けの薬として用いられる薬です。
ドライシロップの良いところ
・粉薬としても水薬としても服用できる
・甘い味付けがされており、小児でも飲みやすい
・液剤よりも持ち運びが容易で、保存性もよい
ドライシロップの良くないところ
ドライシロップについては、薬を作る工程で手間がかかるといったデメリットはあるのでしょうが、使用する側には大きなデメリットはないと言えるでしょう。
ドライシロップ使用時の注意点
・水以外の液体(ミルクなど)に溶かすことはやめましょう
ちなみに、シロップとは
子どもの薬で選択されることが多い、水薬の名前を見てみてください。「○○シロップ」とかかれたものが多いのです。
シロップ剤とは、水薬の一種で、糖類や甘味料で甘く味付けされた液状の薬です。
こちらも主に小児向けの薬として用いられることが多いです。
ドライシロップはこの液剤であるシロップ剤を粉薬のような形状にしたもの、と考えて問題ないでしょう。
粉薬の名前を見て、「○○ドライシロップ」と書かれているものは、粉のままでは飲みにくい場合などに水に溶かして飲ませてみる、という選択をとることができます。ぜひ試してみてください。
医療現場では当たり前の【簡易懸濁法】って知ってますか⁉
簡易懸濁という言葉を聞いたことはあるでしょうか。
病院などの医療機関や、介護施設では「簡易懸濁」という言葉は当たり前に使われるようになってきましたが、世間一般に知られているかというと現状はそうではないかもしれません。
今回は、簡易懸濁が当たり前になってきた経緯から紹介したいと思います。
簡易懸濁が行われるようになるより前の医療現場の実態
医療機関ではご飯を口から食べることができない人に、胃ろうや経鼻チューブなどを用いて栄養を投与しています。
今でも、この医療技術は栄養療法において必須であるといえます。口からご飯を食べることができないわけですから、当然、口から薬を飲むこともできません。
こういった場合、薬もチューブから投与されるわけです。
従来、薬は粉薬もしくは錠剤を粉砕したものを水に溶かしてチューブから流し入れるという方法を使用していました。
しかし、この錠剤を粉砕して使用する方法には様々な問題点が含まれています。代表的な問題点は以下のようなものです。
① 錠剤を粉砕した場合の薬の質や効果の変化
② 錠剤を粉砕する際に医療者や介護者、家族が薬に暴露する
③ チューブの閉塞
④ 手間
⑤ 粉砕時の薬のロス
簡易懸濁法はこのような問題点を軽減することができ、普及が進んだと言えます。
★簡易懸濁法とは★
錠剤を粉砕したり、カプセルを脱カプセル(開封)したりせずに、錠剤・カプセル剤をそのままお湯に溶かし、懸濁させて経管投与(チューブから投与)する方法
★具体的な方法(代表例)★
① カップやボトルに服用したい錠剤と温湯(約55℃*)を入れる
② 5~10分放置する(必要な時間は薬の種類により異なる)
③ ②を懸濁させる
④ ③を注射器などで吸い上げてチューブから投与する
*55℃の温湯の簡単な作り方
ポットのお湯と水道水をおおよそ2:1で混ぜる
(もちろん季節や地域によりやや配分は異なりますが、おおよそお湯2に対して水1を入れたちょっと熱めのお湯というイメージで問題ありません)
厳密に55℃である必要はありません。
温度が低すぎれば薬がとけにくく、高すぎれば薬を変質させる恐れがあります。
★簡易懸濁のメリット★
・チューブを閉塞させるリスクが低い
・投与する薬の量が減らない(粉砕するとどうしてもロスがでる)
・投与直前まで錠剤のままのため、安定性が担保できる
・調剤や服薬時の手間が減る
★デメリットや注意点★
・全ての薬が簡易懸濁できるわけではない
・チューブを閉塞させてしまう薬もある
・薬の種類によって55℃が適温でない場合がある
例えば55℃の温度では効果を失ってしまう薬など
・錠剤のままではなく、最初に軽くつぶしてから簡易懸濁をすべき薬もある
★まとめ★
簡易懸濁法とは簡単にいうと、薬を粉砕することなく錠剤のままお湯に溶かし(懸濁し)、その懸濁液を投与する方法です。
薬は粉砕後の安定性などが担保されていないものも多く、本来ならば錠剤は安易に粉砕すべきではありません。
ただ、実際に錠剤のままでは服用できない場合もあり、そういった場合にこの簡易懸濁法が応用されればと期待しています。
また、簡易懸濁で溶かす錠剤が先日の記事に示した「OD錠」であれば、さらに理想的ではないかと思います。OD錠の普及にも期待したいと思います。
水なしで薬を飲んでいい!?
薬は水や白湯で服用することが基本です。
水なしで薬を飲んではいけないと言われたことがある人も多いでしょう。
しかし、最近では水なしで飲める薬が登場しています。
薬の名前が「○○OD錠」というように名前にODとついたものがあります。これが、剤型の工夫により水なしでも飲むことができる薬の代表例です。
★ODとは★
ODは「Orally Disintegration」の略です。OD錠は「口腔内崩壊錠」と和訳されます。
簡単にいうと、口の中で溶ける薬という意味です。
OD錠は、唾液程度の少量の水で溶けるように工夫されており、水なしで服用しても口の中で溶けてそのまま飲み込むことができます。
もちろん、通常の薬と同じように水で服用しても問題ありません。
★普通の薬とOD錠の違い★
OD錠は製剤工夫のため、通常の薬に比べて直径が大きい場合が多いです。
効果は同じです。
効果発現までの時間も同じです。
OD錠は口の中で溶けるため、通常の薬に比べると甘い味付けにされていることが多いです。
★OD錠のメリット★
・水なしで飲める
特に頓用の薬(例えば、痛み止めや吐き気止めなど)を服用したい時にわざわざ水を用意しなくても服用でき、薬を飲む場所を選びません。
・水分制限をしている人にも使いやすい
・飲み込むことが難しい人でも服用しやすい
・簡易懸濁が簡単
経管チューブから薬を投与されている患者さんに対しての投薬作業が簡単
★OD錠のデメリット★
・湿気に弱い場合がある(一包化が難しい場合がある)
・味が苦手な場合がある
・全ての薬にOD錠があるわけではない
・錠剤自体が大きくなる場合がある
★OD錠服用時の注意点★
・OD錠は水なしで服用できますが、他の薬と一緒に飲む場合はきちんと水や白湯で服用するようにしましょう。
・寝たままで服用してはいけません。
・口の中で溶ける薬ですが、口で吸収されるわけではありません。薬の溶けた唾液は吐き出さないようにしましょう。
・全ての種類の薬にOD錠があるわけではありません。
・口の中で溶けるからといって、効果発現が早くなるわけではありません。
・最後にもう一度! OD錠以外のものを服用する場合は必ず水や白湯で服用するようにしましょう。
乳児に蜂蜜。ダメ!ぜったい!
乳児に蜂蜜を食べさせてはいけない、ということを聞いたことがある人は多いかもしれません。今回はどうしてダメなのかをまとめていきたいと思います。
発症する病気
乳児ボツリヌス症
病原菌
蜂蜜に含まれるボツリヌス菌
(加熱したとしても芽胞は死なないため、感染リスクは残ります)
ただし、蜂蜜以外にもボツリヌス菌が含まれている可能性は大いにあります。
乳児が感染する理由
蜂蜜に含まれるボツリヌス菌は極微量で大人にとっては脅威的なものではありません。しかし、生まれたばかりの乳児にとっては脅威となるのです。通常、乳児は腸内細菌の種類が少なく、細菌叢も発達していません。そのため、腸に届いたボツリヌス菌を排泄することができず発症にいたると言われています。
潜伏期間
3日から30日
症状
便秘(3日以上続く便秘が初期症状となることが多い)
哺乳力低下
脱力感
無表情
眼瞼下垂
呼吸障害
治療
対症療法
大人のボツリヌス症の場合、乾燥ボツリヌスウマ抗毒素を使用しますがが小児には推奨されていません。
海外ではヒトボツリヌス免疫グロブリンが有効だったとの報告があります。ヒト型の免疫グロブリンの開発がすすめば、日本でも小児に薬が使えるようになるかもしれません。
ボツリヌス菌に対しては抗菌薬は使用しません。菌自体は抗菌薬で殺せたとしても菌が壊れる際に毒素をまき散らしてしまう恐れがあるからです。
つまり、現時点で日本で乳児ボツリヌス症に対しての治療は対症療法に限ります。
いつから蜂蜜を食べさせてよいのか
乳児ボツリヌス菌の発症は生後12か月までと言われており、1歳になるまでは蜂蜜を食べさせてはいけないと啓発されています。
以上、乳児ボツリヌス症についてまとめてみました。
自分では体の不調を言葉で伝えることができない乳児の体調変化をよく観察し、異常がある場合にすぐに受診できる体制を日ごろから整えておくことが大切ではないでしょうか。
また、治療薬の開発に期待したいと思います。