頑張るパパママの薬のみかた

現役薬剤師は頑張るパパママのつよーい味方

たかが湿布、されど湿布

妊娠中や授乳中に注意が必要な薬が多々ありますが、実は湿布剤にも注意が必要なものがあります。みなさんも、家に余っていた湿布を腰痛や肩こり、筋肉痛、あるいは足首をひねった時などに自己判断で使った経験があるのではないでしょうか。しかし、実は妊娠中の女性が使ってはいけない湿布剤があるのです。そのため、安易に自己判断で湿布を使うということは避けるべきであると言われています。

では、どうして妊娠中の女性が使ってはいけないのかも含めて簡単にまとめていきましょう。

胎児や母体に影響のある成分の代表例 
 ●ロキソプロフェン
 ●ジクロフェナク
 ●ケトプロフェン
 ●インドメタシン
 ●フェルビナク     など

これらはいずれも非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)に分類される薬剤です。特にケトプロフェンが含まれている湿布剤は妊娠後期の女性に禁忌(使用してはいけない)とされています。その他の成分は禁忌ではありませんが、妊娠後期に大量に使うことは避けるべきでしょう。

胎児や母体への影響

 上記のようなNSAIDsは消炎鎮痛剤と言われており、炎症をおさえる効果もあります。その作用機序は血管を収縮させ、炎症物質が流れていかないようにすることだと言われています。胎児には動脈管という血管があり、その血管が収縮し閉じてしまうと心臓に影響がでます。

 動脈餡収縮に引き続き、心不全や胎児水腫(全身のむくみ)、最悪の場合は死亡とつながるケースがあります。また、動脈管が収縮すると、肺動脈の血管抵抗が高まり新生児が肺高血圧症になる可能性もあります。

以上のように湿布を安易に使うべきではありませんが、妊娠中に全ての湿布が使えないというわけではありません。特にドラッグストアなどで買えるような湿布剤には妊娠中に使用できる薬も多数発売されています。安易に自己判断で使用するのではなく、医師や薬剤師に相談したうえでどの薬を使用するかを決めたほうがよいでしょう。最後に、かなり個人的な意見になりますが、実は病院や診療所などの医療機関で処方を受けるよりも、ドラッグストアや薬局において自分で買うタイプの方が安全と言われている湿布が多いように私は思っています。ぜひ、薬売り場にいる薬剤師に相談してみてください。念のため、かかりつけの産婦人科の先生には湿布を使っても大丈夫かを確認しておきましょう。また、原因不明の痛みで悩んでいる場合は原因究明のためにまずは病院を受診する方がよいでしょう。

日本脳炎ワクチンが足りません

日本脳炎ワクチンを製造している2社のうち、1社のワクチンの製造が一次停止した影響を受けて、2121年度の特に前半に、ワクチンの供給量が大幅に減少する見込みとなりました。

このため、4回接種のうち、1期の2回(1回目および2回目)の接種を優先するよう2021年1月15日付けで厚生労働省よりお達しが出ています。

そもそもこの日本脳炎とはどうような病気なのでしょうか。

日本脳炎は、秘本脳炎ウイルスによっておこるウイルス感染症の一つです。重篤な急性脳炎を起こすことで知られています。ワクチンの接種により、ほぼ感染はなくなったと言われていますが、毎夏、日本脳炎ウイルスを持った蚊は発生しており、日本国内においても感染機会はゼロではないと言われています。

人から人への感染はなく、ブタなどの増幅動物の体内で増えたウイルスを蚊が吸血し、その上で人を刺した時に感染します。

●病原体:日本脳炎ウイルス
●感染経路:蚊などの節足動物媒介性
●潜伏期間:6~16日程度
●症状:急性脳炎
   高熱、頭痛、嘔吐、意識障害、不随意運動、振戦、麻痺など
●治療:ウイルスに対する特効薬はない(対症療法が基本)

日本脳炎は症状が現れた時点ですでにウイルスが脳内に達し、脳細胞を破壊していると考えられています。そのため、将来、仮にウイルスに対する特効薬が開発されたとしても、一度破壊された脳細胞を元に戻すほどの薬の開発は難しいでしょう。

いま世間を賑わしているコロナウイルスと同様に、このウイルスにも感染しない、すなわち予防が大事だということです。

現在日本では日本脳炎の予防接種が公費で受けることができます。

●予防接種のスケジュール
推奨期間  1期・・・3歳~4歳の期間に2回(6~28日の間をあける)
           2回接種を終えた1年度に1回
2期・・・9歳~13歳の期間に1回

この計4回の接種が勧められています。

今回、日本脳炎ワクチンが不足するという事態を受けて、この4回の接種のうち、1回目、2回目のワクチンを打っていない人を優先して使用しましょうということになりました。

今回のトラブルは製造工程の問題ということですが、1日でも早く、ワクチンを必要としている人に供給されることを望みます。

吐き気止めで高血糖

オランザピンは統合失調症うつ病の薬として有名ですが、近年では吐き気止めとしての効果を期待して使用されることが増えています。
しかし、糖尿病のある方には使用できない薬です。
今回は、このオランザピンについてまとめてみます。

オランザピンについて

●効能・効果

 ○統合失調症
 ○双極性障害における躁症状およびうつ症状の改善
 ○抗悪性腫瘍剤(シスプラチン等)投与に伴う消化器症状(悪心、嘔吐)
 ※強い悪心、嘔吐が生じる抗悪性腫瘍剤の投与の場合に限る

 

●用法・用量

  ○統合失調症
    1日1回5~10mgより開始
    維持量は1日1回10mg(適宜増減)
    最大1日量は20mg

  ○双極性障害における躁症状の改善
    1日1回10mgより開始(適宜増減)
    最大1日量は20mg

  ○双極性障害におけるうつ症状の改善
    1日1回5mg(就寝前)より開始し、その後10mgへ増量(適宜増減)
    最大1日量は20mg

  ○抗悪性腫瘍剤投与に伴う消化器症状
    1日5mg(適宜増減)
    最大1日10mg


<オランザピンによる高血糖の発現>

●発現機序

  発現機序は不明

 仮説① オランザピンそのものによりインスリン抵抗性が生じる
 仮説② プロラクチン値の上昇がインスリン抵抗性をもたらす
 仮説③ セロトニン5-HT1A受容体拮抗作用により膵臓からのインスリン分泌の減少
 仮説④ オランザピンが膵臓β細胞のアポトーシスを引き起こす
 仮説⑤ オランザピンが糖輸送担体に作用して糖輸送を傷害する

  などなど・・・

 オランザピンによる治療中に高血糖が起こるメカニズムは解明されていないのが現状です。

高血糖症状出現時の対処法

高血糖症状(口渇、多飲、多尿、頻尿など)が認められた場合には、血糖測定およびその他の検査を実施し、糖尿病の有無を判断する。

 ・糖尿病と診断、糖尿病の既往歴がある場合⇒ オランザピンを中止、糖尿病専門医へコンサルト

 ・糖尿病と診断されない場合、糖尿病の既往歴がない場合 ⇒ オランザピンを中止する必要はないが、血糖値や臨床症状をよく観察し、慎重に投与を継続する


糖尿病の治療は血糖値、電解質、HbA1c、トリグリセリド値、コレステロール値などの検査結果に基づいて行う。

抗がん剤なのによる吐き気に対して使用される頻度が増えたことにより、様々な方が服用される機会が増えた薬です。オランザピンにより、今まで嘔気・嘔吐に苦しんでいた方が少しでも減ることはとても良いことです。しかし、薬には必ず副作用という面があります。今回は、オランザピンの高血糖という副作用をあげましたが、実は血糖値が上がることがあるという以外、どうしてそうなるのか等はきちんと解明されていません。このような場合に大切なことは、そのような副作用が出現した場合に、早期に対応を取ることです。高血糖症状(口渇、多飲、多尿、頻尿など)が認められた場合はすぐにかかりつけ医に連絡しましょう。

高コレステロール血症に注射剤

PCSK9阻害薬とは。

脂質異常症に使用される薬の一つにPCSK9阻害剤というものがあります。2021年1月現在、国内で使用できるこの分類の薬剤はエポロクマブ(レパーサ)とアリロクマブ(プラルエント)があります。

●作用機序

肝細胞の表面にあるLDL受容体を分解するPCSK9の働きを阻害する

  ↓

LDL受容体が増える

  ↓

LDLコレステロールの肝臓への取り込みが増える

  ↓

血中のLDLコレステロール値が下がる

●特徴

・ヒト型モノクローナル抗体

・HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)を併用して使用する

・高薬価医薬品

●適応

家族性高コレステロール血症

コレステロール血症

ただし、心血管イベントの発現リスクが高くスタチン系薬剤で効果不十分な場合に限る

脂質異常症以外の心血管イベントのリスク因子

・喫煙
・高血圧
・糖尿病
・慢性腎臓病
・加齢
・冠動脈疾患の既往、家族歴
・非心原性脳梗塞
・末梢動脈疾患  

など


●剤型

注射剤(皮下注射)

●用法
★プラルエント®

75mgを2週間に1回
効果不十分時は1回150mgに増量可

※スタチン系の治療が適さない場合
150mgを4週間に1回
硬貨不十分時は150mgを2週間に1回


★レパーサ®
※家族性高コレステロール血症(ヘテロ接合体)
コレステロール血症

140mgを2週間に1回 
もしくは
420mgを4週間に1回


※家族性高コレステロール血症(ホモ接合体)

420mgを4週間に1回
効果不十分時は420mgを2週間に1回

フェジン®をブドウ糖液で希釈する理由

 鉄分の補給は経口が原則ですが、経口鉄剤が投与できない場合に注射剤が用いられることがあります。そこで登場するのが、注射薬の鉄剤であるフェジン®静注です。

フェジン®の添付文書を確認すると・・・

 

【適用上の注意_希釈時】

pH等の変化により配合変化が起こりやすいので,他の薬剤との配合に際しては注意すること。なお,本剤を希釈する必要がある場合には,通常,用時10~20%のブドウ糖注射液で5~10倍にすること。

 

とあります。

 

ではなぜブドウ糖で希釈する必要があるのでしょうか。

それを考える前にフェジン®の開発の経緯を簡単に。注射用鉄剤は体内で鉄がイオン化することによる急性中毒反応により、長きにわたり臨床応用は困難とされていました。しかし、コロイド性鉄剤である含糖酸化鉄が開発され、日本では1961年より発売が開始されています。

つまり、急性中毒反応を回避するには、この薬の特徴であるコロイド状態を保つことが必須であると言えます。そのためには1020%のブドウ糖液で希釈する必要があるのでしょう。

 

しかし、実際には5%のブドウ糖液で希釈され投与されることが多いようです。

それは、浸透圧が関係しているのでしょう。通常、抹消血管から投与できる輸液の浸透圧は血液の2~3倍までといわれています。浸透圧が1であればそれにこしたことはありません。浸透圧の高いものを投与すると血管炎などを起こしえます。血液の浸透圧は5%ブドウ糖液と同等といわれていますから、1020%のブドウ糖液にフェジン注を混ぜた場合の浸透圧は少々お高めと言えます。ですから、5%ブドウ糖液で希釈されることが多いのでしょう。経験的にはそれでも血管痛を訴える方が多い薬だと感じています。

 

注射剤で鉄分を補給できる有用な薬ですから、血管炎といった副作用と鉄イオンによる急性中毒反応といった副作用の両面を鑑みてうまく使用していきたいものです。

食後と食直後

 薬をもらった時に服用のタイミングが必ず薬の袋には書かれているはずです。多くの場合、「1日3回毎食後」や「1日1回朝食後」などのように「食後」の服用指示が多いと思います。

 しかし、たまに「1日3回毎食直後」や「1日1回朝食直後」といったふうに「食直後」という指示が書かれている場合があります。

 食後と食直後ではどういった差があるのでしょうか。

 

 「食後」とは食事をとってから30分後ぐらいを意味します。一方で「食直後」は食事のすぐあとという意味になります。

 よく薬は食後に飲まないと胃に悪いとか、なにか少しでも食べてからでないと薬は飲めないなどとおっしゃっている方に出会います。確かにそういう薬があるのも確かです。できるだけ何か食べたあとに飲んだ方がよい薬もあります。食後指示が出ている薬の中には少しでも胃に負担をかけないようにというものもあります。ただ実は、大半は飲み忘れないで下さいねという意味をこめて食後という指示になっているのです。「○○時」と指定されるよりも「食後」という指示の方が、より飲み忘れが少ないという知見からの指示といえます。

 一方、わざわざ「食直後」と指定しているのには多くの場合、もっと大きな意味があります。例えば、イコサペント酸エチルのように空腹時では吸収が悪くなるため食直後に服用するよう指示される薬があります。他にも食事中の成分の吸収を抑えるカルタン錠といった薬も食直後(食事が胃の中にある状態)に服用する必要があります。それ以外に胃腸障害を軽減する目的で食直後が指定される薬もあります。これらは一例ではありますが、「食後」よりも「食直後」の方が何かしらの意味があってわざわざ指定されていると思って問題ないでしょう。

 今回、「食直後」を例にあげましたが、「食直前」「起床時」「寝る前」「食間(食後2時間)」「○○時」など、わざわざ医師が指定するには意味がある薬が多くあります。

指示をしっかり守ることが大切ですが、もし、どうしてその服用のタイミングが指定されているのか疑問に思った場合はかかりつけの薬剤師にたずねてみるといいでしょう。

 

参考までに下に服用タイミングの目安をまとめておきます。

○食前  … 食事の30分くらい前
○食直前 … 食事のすぐ前、直前
○食後  … 食後30分以内
○食直後 … 食事のすぐ後
○食間  … 食事の約2時間後が目安(食事と食事のあいだ)
○就寝前 … 寝る30分くらい前までの間
○頓服(とんぷく) … 症状(例:発熱、発作など)に応じて一時的に飲む

市販薬ロキソニンSと処方薬ロキソニンの違い

頭痛や生理痛などに対して、薬局やドラッグストアで痛み止めを購入する人は多いでしょう。有名な市販薬の一つに【ロキソニン®S】という商品がありますが、実は病院で処方してもらう【ロキソニン®】という薬もあります。この処方薬のロキソニン®を使用したことがある人も多いのではないでしょうか。

 では、市販薬のロキソニン®Sと処方薬のロキソニン®では何が違うのでしょう。

 

成分

 有効成分はどちらも「ロキソプロフェンナトリウム水和物68.1mg(無水物として60mg)」で成分も量も同じ

 

効能・効果

市販薬【ロキソニン®S

 ① 頭痛、月経痛(生理痛)、歯痛、抜歯後の疼痛、咽頭痛、腰痛、関節痛、神経痛、筋肉痛、肩こり症、耳痛、打撲痛、骨折痛、ねんざ痛、外傷後の鎮痛

 ② 悪寒・発熱時の解熱

 

処方薬【ロキソニン®

 ① 関節リウマチ、変形性関節症などの消炎・鎮痛

 ② 手術後、外傷後、抜歯後の鎮痛・消炎

 ③ 急性上気道炎の解熱・鎮痛

 

なんとなく、同じような感じがありますが、少し違います。

簡単に分類すると、市販薬ロキソニン®Sは病院に通院する必要のない急性的な痛みに対しての痛み止め、もしくは病院にいくほどではない悪寒や発熱に対する解熱を目的に使用されます。生理痛などはその代表ではないでしょうか。

 

 

用法・用量

 

市販薬【ロキソニン®S

頓用(症状が出たときにだけ服用):11錠、通常12回まで(服用間隔は4時間以上あける)

 

処方薬【ロキソニン®

処方医の指示通り

 多い処方は・・・

 効能効果①および②に対して使用する場合

 13回 11

 効能効果③に対して使用する場合

 頓用 11錠 通常12回まで

 

 

価格

市販薬【ロキソニン®S

 もちろんオンライン上で購入するのか、実店舗で購入するのか、どの店で購入するのかで変わってきますが、700円(/12錠)程度で購入できることが多いようです。

また、この薬もセルフメディケーション税制の対象ですので、年間の購入代金(他の市販薬を含む)が12000円を超えた場合には控除を受けることができます。

処方薬【ロキソニン®

 2020年の薬価では13.4/錠です。例えば12錠処方されるとすれば160.8円となります。実際には例えば3割負担の人であれば、これの3割を支払うことになりますので、48円程度の薬代ということになります(後発品(ジェネリック医薬品)に変更すればもっと安くなります)。しかし、これに病院の初診料や診察代、薬局での調剤料がかかりますので、3割負担の方で+1300円程度は少なくともかかると思われます。

 

 

 

以上より、病院に長く通院する必要があり、服用量が多くなる可能性のある方は処方薬が必要であると思われますが、ちょっとした痛みなどに使う場合は市販薬の方が安いといえるでしょう。また、市販薬の方が待ち時間なく購入できるでしょう。

 

 

いかがでしたか。成分は同じですが、少し違いがあるようですね。