不育症(反復流産・習慣流産)の治療
妊娠はするけれども、流産や死産、あるいは新生児死亡を繰り返し生児が得られないことを不育症といいます。
また、流産が2回連続する場合を反復流産、3回以上連続する場合を習慣流産といいます。この反復流産や習慣流産などいくつかの状態を含めて不育症といいます。
不育症の原因
偶然起こることもあり、原因が特定できない場合があります。
原因が特定できる場合、主なものとして以下のものがあります。
・胎児の染色体異常
受精卵は一定の割合で染色体異常が持つ可能性があります。染色体異常の全てが流産、死産につながるわけではありませんが、流産の原因となる場合があります。
・凝固因子異常
・子宮形態異常
・内分泌異常
不育症の治療
まずは原因の特定を行います。特に習慣流産の場合は、検査を受けることが推奨されます。
検査は血液検査、超音波検査、子宮卵管造影検査、子宮鏡検査などです。
検査の結果、みつかった要因をもとに治療を行います。
ただし、検査を行っても原因が特定できないこともあります。それは流産の多くが胎児の染色体異常が原因であり、母体側の治療では回避できないからです。また、まだわかっていない原因があるのかもしれません。
・抗リン脂質抗体症候群、凝固因子異常の場合
抗血栓療法をおこないます。
一例を紹介します。
低用量アスピリンの内服
例)1日80mg~100mgのアスピリンを毎日服用
海外では妊娠28週以降も使用されている場合もありますが、日本の添付文書(2021年6月現在)では妊娠28週以降以降の使用は認められていません。そのため、28週までの使用、もしくは患者さんへの説明同意に基づき分娩1週間前までの使用とするのが通常です。
不育症に対して、使用経験は多い薬であり、母児ともに比較的安全な薬と言われています。
しかし、過去にアスピリンによって喘息を起こしたことがある場合には重度の喘息発作が起こる場合があるため使用できません。
また、長期の使用による胃腸への負担もむげにはできません。胃薬などが合わせて処方される場合もあります。
さらに、低用量アスピリンは血液をさらさらにする作用を発揮するため、分娩直前まで使用した場合は分娩時の出血量の増加にも気をつけなければなりません。
ヘパリンカルシウムの自己皮下注
例)1日2回12時間毎に ヘパリンカルシウム皮下注5000単位
ヘパリンカルシウムはプレフィルドのシリンジ製剤が発売されており、注射器に既に1回分の薬液が入っています。そこに針をつけて、自分で注射することができる製剤です。
ただし、飲み薬と違って、注射を自分で打つという操作が必要になりますので、適切な手順でおこなうことができるよう、使用方法についてはしっかりと説明を聞くようにしましょう。
また、1回の投与量はシリンジ1本分になることが多いですが、血液検査の結果をみながら使用量が変更になる場合もあります。
繰り返し、皮下注を行うことで、注射部位のかゆみや硬結を生じることがあります。注射を打つ場所を少しずつ毎回変えるようにしましょう。
抗リン脂質抗体症候群、凝固因子異常による不育症の治療では上記の2剤のいずれか、もしくは両方を使用します。特に抗リン脂質抗体症候群が流産の原因の場合、低用量アスピリンとヘパリンカルシウムの併用が有効であると言われています。
・子宮形態異常の場合
子宮形態異常の場合、薬での治療ではなく、主に手術による治療をおこないます。
・内分泌異常の場合
甲状腺疾患や糖尿病といった内分泌異常が原因の場合、甲状腺疾患や糖尿病に対する薬物治療をおこないます。
・精神的および身体的ストレス
精神的および身体的ストレスによって流産が繰り返される可能性があります。無理のない妊娠生活をこころがけるようにしましょう。
不育症の多くは原因が特定できず、薬物治療や手術療法といった明確な治療が存在しない場合が多々あります。
しかし、偶然の流産や原因不明の流産を繰り返す場合であっても、検査を受けてカウンセリングを受けることが可能です。
流産回数は多くても、最終的に子どもを持てる確率は普通の夫婦と変わらないという場合もあります。
自分自身の思い込みで妊娠を諦めずに専門の医療機関でよく相談するようにしましょう。
夫婦で十分な説明をうけることで、精神的なストレスが軽減されることもあります。
また、妊娠した際には、安定期までこまめに妊娠検診を受けるようにしましょう。
少しでも不安を取り除き、健康な妊娠生活を過ごすようにしましょう。