妊婦の貧血に対する治療
妊娠期に起こりやすい症状の一つに貧血があります。胎児の成長に伴う栄養素の需要増加および循環血流量の増加が貧血を引き起こす主な要因と言われています。
さらに、悪阻による食事量の低下、服用中の薬剤の影響、分娩時出血なども原因になりえます。
血液中のヘモグロビン値(Hb)が低い場合に貧血と診断されます。貧血にはいくつか種類がありますが、多くが鉄欠乏性貧血であり、妊婦の貧血の治療には鉄剤が用いられることが多くなります。
鉄分のほか、葉酸やビタミンの不足により貧血をきたす場合もあります。
【よく使用される鉄剤】
●クエン酸第一鉄ナトリウム錠
(参考:フェロミア®錠の添付文書)
[フェロミアの効能・効果]
鉄欠乏性貧血
[フェロミアの用法・用量]
1日100~200mgを1~2回に分けて服用
ただし、消化器症状などの副作用軽減を目的にさらに分割して処方される場合もあります。
○経口鉄剤の副作用
・便が黒くなる
・口の中に金属の味が残る
・嘔気、嘔吐、胸焼け、便秘、下痢といった消化器症状がおこる
○経口鉄剤の飲み合わせ
[食事、飲み物]
以前はお茶で鉄剤を服用することは駄目だと指導されていました。また、空腹時に服用する方が吸収がよいも言われてきました。
これらのことは間違いではありませんが、貧血の治療という目線にたったときには、たとえ食事中に服用したとしても、たとえお茶で服用したとしても、大きな差はないと報告されています。
お茶や食事に含まれるタンニン酸が鉄の吸収を妨げることは事実ですが、鉄欠乏状態の方の場合、体の鉄吸収能が亢進している状態ですので、大きな問題とならないのです。
副作用で飲めなくなるより、水が手元にないからといって飲まないより、毎日欠かさず薬を飲む方がよい。そういった意味も含まれるのかもしれません。
[薬]
テトラサイクリン系の抗生剤など、一部の抗生剤とはキレートを形成し、相互にもしくは抗生剤の吸収を阻害することがあります。基本的には3時間以上あけて服用することが勧められています。
酸化マグネシウムなどの制酸剤と同時に服用すると、鉄の吸収が阻害されることがあります。
[ビタミンC]
鉄の吸収を促進すると言われています。鉄剤とビタミンC製剤の併用処方も時折みかけます。
しかし、嘔気などの消化器症状は起こりやすくなる可能性があります。
●含糖酸化鉄注(フェジン®注)
鉄剤は基本的には経口投与(飲み薬)になります。どうしても口から服用しにくい場合に注射剤が選択されることがあります。
注射剤を用いる場合、過剰症に注意が必要です。
注射の鉄剤についてはこちらの記事も参考にしてください。↓↓
sakimitiharu.hatenablog.com
最後に
妊婦の貧血とはいえ、貧血の治療自体は特別なものではありません。しかし、妊婦が鉄欠乏性貧血をきたしやすいのも事実です。
鉄分の多い食事を心がけるようにしましょう。
ただし、病院で処方される鉄剤には鉄分が多く含まれています。過剰な鉄分は母体の臓器障害を引き起こし、流産や早産といったリスクを上げることも知られています。自己判断で薬を服用することのないようにしましょう。